ノイズに細心の注意をしながら,音響カプラを受話器にセットする。漏れ聞こえる通信音が,そよぐ風のように,あかしま風のように,鳴る。やがて,モデムの通信速度は,1200bpsから2400bpsへ,さらにぐんぐんあがっていく。モデムは,NECのコムスター2415。プロトコルは,XMODEMからQVへと。その歩みは,やがて世紀末のビッグバンにも繋がっていく…。
NEC社は,同社のパソコン通信サービス「PC-VAN」の企業向けサービスを2001年4月で終了すると発表した。すでに個人向けサービスは,2月で終了がアナウンスされており,15年間の歴史に幕をおろすこととなる。
もうひとつの,後発ながら一気に会員数トップの座を奪い取ったニフティ同様,商用パソコン通信に新世紀は来ない。ほんとに一瞬でインターネットに取り込まれてしまった。日経MIX,ASCII-NET,PEOPLE…,あの時のモデム音を,聴くことはもうない。それらのニフやバンといった通信は,中央による管理によって秩序を維持していたが(基本的にはオペによるユーザーサイドの自己管理だったが),それでもなぜだかバンは争いやもめ事,罵倒合戦みたいなことや,著作物の無断転載などなど,イリーガルな特殊な秩序と雰囲気が確立していた。裁判沙汰も多かった。もっとも有名なのは週刊文春に対する名誉棄損訴訟で,全面的な謝罪広告を掲載させたことか(参考リンク)。とにかくそんな秩序が,心地よいと感じる人も多かっただろう。
1箇所に集うカタチのパソコン通信から,分散と偏在による現在のインターネットへの変遷は,ある意味劇的な変化だった。通信のフォーラムは,過去から現在へとメッセージが下っていくが,インターネットの掲示板は最近から過去へと下がっていく,すなわち違う時系列を持つ。これも大きな違いだ。さらに,ソフトウェアのインターフェイスが格段に整ったことで,インターネットは通信の持っていたマイノリティさを捨て去った。だが,そんなに違いがあっても,変わらないものも多い。2ちゃんねるなどのコミュニティに,草の根ネットのような匂いを感じることは多い。プロトコルは変わってしまったが,そこにあるものは変わっていないのかもしれない。失われた大陸都市からの風は,今もここを駆け抜けている。
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